1998年9月7日 OPEN
仕事でプロレスラーに会ったことがある。前田日明、山本宜久、成瀬昌由、坂田 亘、高田延彦、高野拳磁。いずれも試合を間近に控えたインタビュー取材だったが、前田日明選手に出演していただいたCBCラジオ『ぽっぷん王国ミュージックスタジアム』の収録時にはリングスのはからいで、その様子が『週刊プロレス』にも掲載された。ここでは、前田日明選手の更なる魅力を知ってもらうべく『前田日明フォーエバー』と題して、その放送された内容と放送にのらなかった部分も交えて、CBCの倉庫から発掘されたマスターテープを再現する。
(ご覧頂く前に)
この番組は、10代のアマチュアミュージシャンを応援するのをコンセプトに放送している。そんな中で格闘家の前田日明さんがゲストというのは異例かもしれないが、それは私牛嶋の『前田さんに話を聞きたい』という熱い想いからだった。音楽番組という事で試合に関する話はなし。内容は『テーマ曲』をメインという、今にして思えば画期的な放送だったと想います。なお、放送では20分収録されたうちの約10分少々。今回は、(株)リングスの協力を得て完全ノーカットで再現する。それではさっそくその模様をどうぞ。
(牛嶋)それでは前田日明さんにお話を伺います。よろしくお願いします。
(前田)よろしくお願いします。
(牛嶋)さて、実はこの番組音楽番組でして・・・格闘技と音楽と考えるとやはりテーマ曲という事になるんでしょうね。その辺りを中心にお話をお聞きしたいと思います。
(前田)分かりました。
(牛嶋)まずは前田さんの好きな音楽ってなんですか?
(前田)別にこれが好きだというのはないんですよ。まあ、たまにロック聞いたりジャズ聞いたり、この頃なんかクラシックを聞くようになったって感じですかね。
(牛嶋)クラシックですか・・・
(前田)自分の場合、複雑なもんじゃなくてね。ヴァイオリンなんかの小品集とかね。ピアノでも短い曲とかね。そんなの聞いてますね。
(牛嶋)最近になってですか?
(前田)去年ぐらいからですね。
(牛嶋)じゃ、昔これが好きだったというのはありませんか?
(前田)自分が高校生ぐらいの時ですかね。当時、ラジオから聞いたり、ポピュラーベスト10っていうんですかね、オールドファッションラブソングとか・・・それから周りでビートルズが良いっていうんでビートルズを聞き始めてそれからカーペンターズやイーグルス、キャロルとか聞き始めて・・・っていう感じですかね。
(牛嶋)でも前田さんて音楽業界の方ともお付き合いありますよね。
(前田)そうですね。昔UWFの旗揚げの当時ですかね。ハウンドドッグとかありましたけど・・・
(牛嶋)じゃ、それは今いろいろと膨らんだんじゃないですか?
(前田)いや、そうでもないですよ。(笑)
音楽を有効に使うリングス
(牛嶋)それにしても、前田さんのリングスって非常に音楽を有効に使ってる団体だと思うんですが・・・
(前田)あっそうですか?ありがとうございます。
(牛嶋)いえいえ。いや何故かと言いますと、まずは会場での音が全然違うんですよ。失礼ながら他の団体と比べさせて頂きますと、まずスピーカーが大きいですし、音も鮮明でその部分でファンを熱狂させるって所があるんですよね。また、入場式って必ずやるじゃないですか?その時のテーマもいつも一緒ですし、試合が終わった後に流れる曲も同じだし、この曲が流れるとリングスみたいな感じで僕らファンからすると、頭にイメージづけられちゃうんですよ。あと、選手のテーマにしても1人づつ必ずありますし、会場でもそうですが、テレビで見ても音に合わせた映像作りをしている・・・その点は前田さんの考えなのか?あるいはテレビ中継をしているWOWOWの考えなのか・・・その辺りを聞かせてもらえますか?
(前田)そうですね。誰の考えという事でもないんですけどね。やっぱり格闘技って格闘技そのものだけだと凄く殺伐としちゃうんですよね。なんか他のスポーツと違ってね。それで、ムード作りって言ったらアレですけどそれは大事な事だと。あとは人間ってひとつの物に集中しようとすると意識的に段階を踏んで楽しむっていうかそういう所があると思うんですよね・・・時間の流れって言うんですかね。それを一緒に体験してもらおうという事で、入場式も大切だし、選手が入るときのテーマミュージックも大切だし・・・だから音響っていうのは、試合は目で見て、場内の雰囲気を身体で感じて、耳に入ってくるものは音楽って事でそれはやはり全部が全部大切ですからね。
(牛嶋)そう言えば昔UWFの時代に試合が始まる前に・・・いわゆるお客さんが会場に入って来る際にBGMを流してお客さんを迎える・・・これプロレス界では前田さんのUWFが初めてでしたよね。
(前田)そうですね。
(牛嶋)さて、テーマ曲についてですが、ファンはですねえ。レスラー=テーマ曲という感じで見てしまうんですよ。
(前田)そうですね。音にも重さがあるじゃないですか?それに自分の持ってるムードとか目指すムードとかそれがピタッと合った入場曲を持ってる人っていうのはファンにとってはイメージしやすいですよね。
(牛嶋)今前田さんが使っている『キャプチュード』(キャメル)<POCD−1829>これは前田さんが選んだんですか?
(前田)そうですね。これは自分の友達でレンタルCDショップをやってる人間がいまして・・・今から10年、いや12年ぐらい前ですかね。その人はずっとアマチュアバンドをやってた人でもあるんですけど、なんかねえ、デーモン小暮さんと一緒にやってたらしいんですよ。で、当時自分の入場曲なんかいいのがないかなあって相談したら、毎週毎週20曲ぐらい持ってきてもらったんですよ。3分ぐらいの短い曲にしてもらってね。全部で200曲ぐらいになりましたかねえ。そこから5曲いいのがあって選んでそのうちの1曲がこれ(キャプチュード)だったんですね。
(牛嶋)でも、見事にピッタリ合ってますよね。
(前田)そうですね。でも、この曲は最後に聞いた残り5曲の中のものだったんですよ。最初は心配したんですけどね。流して見るとムードがあってピッタリはまってるんでね・・・
(牛嶋)あと、リングスのみなさんは結構良い曲使ってますよね。こだわりがあるというか、成瀬選手はB’zの曲を使ったり・・・
(前田)そうですね。彼はB’zの稲葉さんに可愛がってもらってるんでね。本人に使っていいっていう許しをもらって使ってるんですよ。
(牛嶋)で、B’zが新曲出るたびに変えてますよね。
(前田)変えてますね(笑)時々はまりすぎて前奏の時に訳の分からないポーズ取ったりしてますけどね(笑)
テーマ曲の効果とは?
(牛嶋)やっぱり入場する際には『前田日明選手の入場です』という古田リングアナの呼びかけがあってからテーマが流れるじゃないですか?その時ってテーマ曲はあのざわめきの中でちゃんと聞こえるものなんですか?
(前田)聞こえてますよ。自分の場合はアレってイントロが静かに入るじゃないですか?だから気持ちを乗せやすいですね。それと気持ちを集中させる手助けって言うか・・・
(牛嶋)やっぱりそういう効果ってあるんですね。
(前田)いや、人によって違うんでしょうけどね。
(牛嶋)じゃ、それでリングに向かう花道で気持ちを高めるわけですか?
(前田)いや、自分の場合は高めるってよりは、余計なものを落としていくみたいな・・・リングに上がる時に必要のないものは全部脱ぎ捨てて行くって感じですかね。
(牛嶋)高めるんじゃないんですか?でも、そう言えば昔ってテーマ曲がない時代があったじゃないですか?今は新人レスラーでもありますもんね。
(前田)そうですね。自分の若手の頃はなかったですね。自分が23ぐらいの時ですかね。15年ぐらい前ですか?イギリスに行く前ですから・・・その時に猪木さんが今使ってるテーマを使い始めた頃ですからね。その後、急にパパパッってブッチャーやテリーファンクらがテーマ曲を使うようになってね。
(牛嶋)前田さんの一番初めのテーマ曲って覚えてますか?
(前田)覚えてないですね(笑)
(牛嶋)いや『クラッシュボーイ』って曲があったんですよ。
(前田)そうなんですか(笑)
(牛嶋)イギリスから帰って来て蔵前国技館で凱旋のあいさつをしたじゃないですか?その時に流れたんですよ。
(前田)いやあ、知らないですね(笑)たぶんその時だけじゃないですか?自分はその後ユニバーサル(旧UWF)に移りましたからね。その時点で新日本プロレスが版権を持ってるんで使えなくなってますからね。ユニバーサルでは用意してもらった物を使ってましたけどそれもピッタリきてませんでしたね。
(牛嶋)でもやっぱり若手の頃猪木さんが使っていたのを見て自分も将来こんなテーマを使ってやろうとかって思ってたんですか?
(前田)いやあ、自分は猪木さんのテーマを聞いて正直言って、猪木さんつらいんじゃないかって思いましたけどね(笑)なんか全然合ってないっていうかね。なんか軽すぎるんじゃないかってね(笑)猪木さんも最初はイヤそうにしてましたよ(笑)そのうち気にしなくなったみたいですけど。
(牛嶋)ああ、そうですか(笑)あれは、モハメド・アリがプレゼントした曲らしいですけどね。まあ、今のこの世の中ですからこうして音楽が有効に使われてると思うんですけど、見る人も試合を見る上で気持ちが盛り上がるっていうか・・・ただ何も流れなかったら寂しいですからね。やはり会場のお客さんもテーマ曲が流れる事によってノってるなあっていうのが分かりますか?
(前田)そうですね。効果音ってあるじゃないですか?レスラーのテーマ曲の場合はねえ、効果音のひとつだと思うんですよ。その人の持ってる雰囲気を音とリズムとメロディーを付けたらどうなるかっていうんで・・・ピタッとハマってるのがそのレスラーに合ってるっていうかね。でも、その人自身が感じるものじゃなくてね、周りの人から見てその人に望むものっていうかね、その人に対するイメージが決まってくるんじゃないですか。ですからレスラー側から見た理想の物とファンから見ている理想の物とクロスした部分で
ムードが出てくるんじゃないですかねえ。
入場シーンを見て勝ち負けが分かる!
(牛嶋)そういう意味ではテーマ曲を選ぶのは非常に重要ですよね。
(前田)いやこれは本当に重要だと思うんですよ。
(牛嶋)リングスのみなさんはみんな自分で選んでるんですか?
(前田)自分で選んでますね。若い奴は試行錯誤してて、しょっちゅう変えてるみたいですけどね。あんまりしょっちゅう変えるのはどういうものかと思いますけどね。
(牛嶋)外国人選手もですか?
(前田)そうですね。でも、ハン(ヴォルク・ハン)とかね、ナイマン(ハンス・ナイマン)は、本人に合うようにって事でリングスでチョイスして作りましたけどね。
(牛嶋)でも、ハン選手のテーマって良いですよね。
(前田)あれもピッタリですよね。
(牛嶋)でも、リングスの中継をテレビで見てると、試合はカットする事はないですけれど時間の関係で入場シーンをカットする場合があるじゃないですか?画面ではもう既に選手が向かい合っていて、そこからゴングが鳴って試合が始まるという・・・あれ僕は非常に嫌なんですよ。
(前田)そうですか。自分の所(リングス)は試合時間がバラバラですからね。編集の人も大変そうですけど・・・
(牛嶋)いや、試合はカットしてもいいから、入場シーンを見たいっていうのがあるんですよ(笑)
(前田)そうですか・・・でもね。あの入場シーンを見ててその日の選手の体調が分かったりするんですよ。それに、その試合に対して選手が自信を持ってるか持ってないかも分かりますしね。その試合に勝てるか、あるいはアカンなあ(負ける)っていうのも分かったりするんですよ。それに、もしかしたら格上の選手を食っちゃうんじゃないか・・・なんていうのを感じたりね。控え室のモニターテレビでいつも見てますけどね。
(牛嶋)へ〜っ。そんなことまで見てて分かるもんなんですね。
(前田)はい。なんか独特のムードを発散してるんですよね。そういう人ってね。
(牛嶋)いやあ、でも驚きでした。それにしても前田さん自身は、さきほど伺ったようにテーマ曲の変化がほとんどないという事なんですけど、他の団体のレスラーって結構換えてるんですよね。長州(力)さんはずっとパワーホールのままですけど藤波(辰爾)さんはずいぶん換えてるんですよ。
(前田)そうですね。換えてますね。
(牛嶋)僕が思うには、レスラーの成長とともに会社側が換えてるんじゃないかと思うんですね。藤波さんはジュニアで一時代を築いた時があって、その後、ヘビー級に転向してと・・・強いイメージにしようと・・・そのイメージが変化してるからっていうかね。
(前田)いや〜、このマット界ではそういう会社側からの戦略的なものは一切ないですね。だから、藤波さんの場合も自分で換えたかっただけじゃないですかねえ。長州さんのテーマは、ファンのミュージシャンが作ったって聞いてますけどね。だからレスラーの成長によって気分が変わってくるでしょうから、そこで換えてるんじゃないですか?
なに?キャプチュードはこうして生まれた?
(牛嶋)そうですか・・・でも、前田さん今日は僕なつかしい物を持ってまして・・・前田さんのテーマ曲キャプチュードのアナログ版なんですけどね。
(前田)は〜っ。これ今売ってないんじゃないですか?
(牛嶋)いやあ、宝物のように大切にしてましたけど・・・このジャケットには技を掛けている写真がありますけど、これは、相手の蹴り足を取ってそのまま後方に投げる技ですけど、この技の名前がなんと『キャプチュード』という事で、実は、この曲からこの技の名前がついたんですよね。
(前田)そうですね。
(牛嶋)これ、選んだ時にキャメルのキャプチュードって曲だというのは知っていたとは思うんですが、意味までは知っていたんですか?
(前田)いや、知らなかったんですよ。キャメルは、イギリスのフュージョンバンドなんですけど、昔ルバング島で小野田さんが見つかった時に・・・あのニュースってUPIを通じて世界に流れたんですけど、それを見たキャメルが、1人の日本人が20何年間も孤独なゲリラと戦っていたっていうんで感銘を受けて、それで1枚のアルバムを作ったんですよ。キャプチュードは、そのアルバムの中で小野田さんが発見された・・・言葉悪いかもしれませんが捕獲されたっていう意味付けでその曲が収録されてるんですよ。
(牛嶋)へ〜っ。あの小野田さんを見て作った曲なんですか・・・しかも、イギリス人が・・・
(前田)今でこそキャプチュードは有名な技の名前になりましたけど、使い初めの頃は名前のない技で、イメージとして相手の蹴り足を取る技ですから・・・捕まえるとかそんな言葉ってないだろうかって思ってたんですよ。それで、ふとそのテーマ曲のキャプチュードってタイトルを見てこれはどういう意味なんだろう?って調べたんですよ。そしたらね。英語でね。捕獲とか、捕まえるとかそんな意味だったんですよ。それでびっくりして・・・その当時はその曲に小野田さんの話があったなんて事は知りませんでしたから・・・これでいこうって決めたんです。
最後にちょっと試合の話を
(牛嶋)は〜っ。それにしてもテーマ曲は技の名前まで決めてしまうんですね。その点では偶然とは言え、前田さんのテーマになるべくして出来あがった曲という事もいえるんじゃないでしょうか・・・・いやあ、この話はびっくりでした。さて、このキャプチュードに乗って前田さんが試合をする日(1996年10月25日愛知県体育館)が近づいて参りました。ラジオをお聞きのみなさんも是非、今日聞いた話を参考に入場式からしっかりとリングスを見ていただきたいと思います。最後に前田さん、膝の状態はどうですか?
(前田)順調に試合に向けて調整している所ですね。
(牛嶋)でも、あまりトレーニングする時間もなかったんじゃないですか?
(前田)そうですね。やったりやれなかったりですけど、こういう経験初めてじゃないんでね。なんとかやってますけど。
(牛嶋)でも相手がコピィロフ(アンドレイ・コピィロフ)選手じゃないですか?この間山本選手に勝ちましたよね。僕は改めてコピィロフの強さを感じたんですけどね。
(前田)でも、あの選手は非常に波のある選手なんでね。山本もコピィロフとやる前に完全KOの試合が続いてたんでね。あれで身体のキレがなかったですね。勝ち負けはともかくとしてもう少しキレがあっても良かったんじゃないかと思いましたけどね。
(牛嶋)でも、益々面白くなってきましたよね。田村さんも入って来て・・・1人入って来たことによって対戦カードがどんどん広がりますしね。
(前田)そうですね。それはありますね。
(牛嶋)トーナメントでは、まず田村さんは長井さんと対戦する可能性があるんですよね。
(前田)長井はねえ、凄い燃えてますよ。それに今すごく乗ってますからね。どんな事があっても阻止するって気合入ってますよ。
(牛嶋)そうですか・・・そういう意味では益々楽しみになってきました。今日は本当にありがとうございました。
(前田)はい。ありがとうございました。
(牛嶋の感想)
実はこの後もずっとスタジオで前田さんとお話をさせていただいてました。リングスの方向性をはじめ亡くなった極真会館の大山総裁の話も・・・・残念ながらその部分は時間の関係と放送には使わないという事でテープを止めてしまってたんですね。今にして思えば残念ですが・・・それにしても、試合の話じゃないテーマ曲の話にもかかわらず前田さんは、ひとつひとつ丁寧に答えてくれました。その辺で非常に好感を持ちました。リングスの方も『前田さんは周りの人を凄く大事にしている』と話していたように、相手に対して心遣いを忘れない人のようです。その点が格闘家として、また1人の人間として非常に魅力があり、たくさんの人を魅きつけてる理由なんでしょう。もうラストマッチを行いファイトを見る事はありませんが、前田さん!僕は人生の中であなたと出会った事を最高に幸せだと思っています。これからもご活躍下さい。ありがとうございました。そして、前田日明よ永遠に・・・